月夜見

   “お寒うござんす”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

夏だけじゃあなく秋までも、尋常ならざる暑さに居座られ、
紅葉はまだか情緒のないことよと
皆して辟易していたはずが。
気がつけば、ごとんと落っこちるような突然に、
暑いなんて言ってはいられぬ風が吹き始め。
大雨のあと またぞろ蒸し暑くなるかと思えば、
朝晩の冷えが強くなり、
ああそうだよ、そういえば、
このくらいって毎年こんな感じだったよと。
皆して大慌てで秋の用意に取っかかり、
いやいや それどころか、もう冬支度にかからねば、
うっかりしてると風邪を引くよと、
療養所のせんせえ方が、
あちこちでの呼びかけを始めておいで。

 「ブルックも、
  煎じ薬を作るのを任されて忙しいんだってな。」

 「はい、わたくし これでも
  薬草に関してはちょっと自信がありましてvv」

さすがは元武家の出ということか、
色んな基礎知識は豊かなお人なようであり。

 「でも、こういうものは
  新しい発見もたくさんありますからねぇ。」

学ぶものもたくさんで、
キリがなくって大変ですよぉと
嬉しそうな声で“よほほほほ…♪”と笑ってしまわれる。
ちょっとした事情があってのこと、
あんまり表へは出ない療養所の助っ人様。
姿を見せられぬという まずはの事情から、
随分と大きな、
お嫁さんの綿帽子みたいな かづき帽をかぶり、
お顔も顔布でほとんど覆っていて。
今時分どころか真夏の暑い頃合いも、
腕や脚も筒袖の衣紋で覆っておいでだったお人。
あまりに姿を隠しまくるのを、
当初は、手配されているような怪しいお人なんじゃあとか、
はたまた、おっかない感染症に罹患しているのではなんて、
良からぬ噂も立たないじゃあなかったが。
そんな怪しいお人を患者の手当てに駆り出すものかと、
大先生が一笑に付したその上、
手がすくとお膝で拍子を取りつつ、
伸びやかで味のあるお声で
小唄や常磐津なんかを
朗々と唄って下さるのが何とも軽妙なものだから。
患者は元より、何故だか付き添いの人まで増えての、
顔布のブルックさんの手が早くすくようにと
ほいよ水汲みだね、あいよ薪運びだねと、
あれこれお手伝いまで買って出て下さるようになったほど。

 「俺もブルックの歌は好きだなvv」

ルフィ親分も歌やお囃しは大好きなので、
見回りの途中で寄ったおり、
彼の小唄が始まっていたりしようものならば、
それは嬉しそうに聞き入るし、
興に乗れば、剽軽な所作もふんだんに、
即席の振り付けで踊って見せもするほどで。
今日も今日とて、
感冒の予防に必要な知恵のあれこれを身につけ、
長屋でも皆へ説いて聞かせるのだぞというお達しがあったので、
それを聞きにと気安く訪れていた親分さん。
薬臭いの、縁起(ゲン)が悪いのと、
元気な人や捕り方は、
御用でもないのに…とあんまり近寄りたくない場所だけど。
そういうことにもこだわらぬ
朗らかでおおらかな親分の性分が、
大きな怪我や大病で長く臥せってる患者さんたちをも
ホッとさせていたし、

 「そうですか、そんなお達しが出ているのですか。」

この藩は本当に民を大切にしているのですねと、
しみじみと感心するブルックでもあり。

 “そか、そういえばブルックは…。”

縁側でのお茶会に、
そちらさんは診察の狭間の休憩なのでと
お顔を出してたチョッパーせんせえも思い出していたのが。
こちらの…実は骨だけ骸骨なお人、
籍を置いていた藩でのお家騒動に巻き込まれ、
気の毒な扱い、死んだ後まで受け続けていた存在で。
自分たちの栄華しか考えぬ、
家老だの城代だのの身勝手な謀略に翻弄された身にすれば。
まずは城下や藩内のことごとくに目を配り、
不自由や不便をしている人はないか、
また、上にばかりいい顔をするという
考え違いをしている里長や村長はいないかと。
そういうことを最優先して、
解決や指導にあたっておいでのこの藩の心情的な豊かさが、
希有なことよと感動しているのでもあるのだろうて。
快癒した患者さんが、
お世話のお礼にと持って来てくださった
城下でも評判のおまんじゅうを頬張りつつ、

 「風邪にも用心だが、実は食あたりも注意なんだぞ親分。」
 「ええっ? 寒くなんのにか?」

おうよ、若いのは元気だからすぐ治る、
それで“何だ腹いたかぁ、悪いもん食ったかな?”って
自分一人の事って格好で終しまいになるけど、

 「実は、伝染する病いだってことがあるんだな。」
 「うえぇ?」

体力のない年寄りや子供は注意しないといけない病いでな、
なので、真夏並みに清潔にすることへ気をつけないと…と、
新種の病いについての有り難いお話、
親分さんは元より、
屋根の上では黒髪の隠密さんも神妙に聞いておいで。

 “いいお話を聞けたわね。”

親分さんを見守ってると、
胸のすくことや ほのぼのしたことに出会えるものだから、
急ぎの任務でご城下を翔っているとき以外、
目につけばついつい後を追ってみたりするお姉様。
今日は思わぬ拾い物をしたのでと、
親分さんより先んじて離れたついで、
寒風吹くも、まだ今日は陽気のいい街なかを
墨染の衣紋にまんじゅう笠で歩んでおいでの誰か様、
一応は さりげなく
親分の通る路程へ誘い出してやろうとほくそ笑む。
本格的な寒さの来る前に、
皆して暖かくしましょうよという、
その心掛けこそ暖ったかい、
グランド・ジパングの皆様なようでございます。




    〜Fine〜  13.12.06.


  *久し振りの親分噺、久方ぶりのブルックさんです。
   首が外れても大丈夫だったのに驚いていたらば、
   幽体離脱なんてな荒業まで出来るようになってたんですねぇ。
   それはさすがに…このシリーズでは使えないかなぁ…。(う〜ん)

  *本文には出て来ませなんだが、(「くぉら」)笑
   この時期の某三刀流の坊様は、
   人事異動の結果待ちで、
   居ても立ってもいられない頃合いでしたね、そういえば。
   まま、あのレイリーさんが“大目付”ですから、
   滅多なことでは
   此処から外されることはない…とは思うのですが。
   年に一回くらいは胃が痛い思いもなさった方が
   人間が練れるのではと、余計なお世話の気を回してもらい、
   連絡がいつも年末ぎりぎりなのをこそ
   褒美はいいから何とかしてほしい彼なのかもですね。(大笑)


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